INTERVIEW

インタビュー風景

ピンチに備え「選択肢」をつくる

「デザインとプログラミングで、最大限の価値を提供する。」そんなキャッチコピーのもと、2011年、岡山県に誕生したDIGITALJET(以下 JET)は、たった数名のメンバーが、フルリモートで自由に働きながら、さまざまな企業におけるデジタルの中枢を担っている会社です。

通常、「モノづくり」といえば、「納品」だと思われがち。でもJETはちがう。JETの仕事は「最適なモノをつくり続ける」ことなのです。

「最適」とはなにか?

「つくり続ける」とは?

今まで、「自分たちのことをまったく語ってこなかった」というメンバーにさまざまな質問を投げかけていくと、JETが持っている哲学のようなものが見つかりました。

さまざまな働き方が存在する現代。読んだ人にとって、生き方、考え方、なんらかのヒントになれば幸いです。

想定されるものを全部「準備」しておく

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大木:今回はみなさんに、「ピンチの乗り越え方」について聞いてみたいと思います。インタビューを重ねていくと、JETのみなさんってみんな冷静で、常に「引き」で見ていて、選択をするシーンもスマートにこなしているイメージがあるんですけど、トラブルが起こった時ってどう対応してるんですか!?

真崎:「準備しておけばいい」という気持ちで全てのことを考えています。想定されるものを全部準備しておけば、トラブルが起こってもバタつかないから。

大木:想定されることを、事前に全部準備してから取り組むってことですか?

真崎:当然、想定外のことも発生したりもするけれど、だいたいあらゆるパターンのことは事前に考えていますね。

栩平:僕は、心配性なのでどんな状況でも「この状態が永遠に続くことはない」って思っているんです。日々の小さな課題はあるけど、その都度改善しています。
我々も最初はお問い合わせがあれば見積もりをして開発をするスポット型の受託開発をしていましたが、そうすると受注の波があるんです。3月、12月は忙しいけれど、夏は閑散期で受注が少ない。デザインの仕事だけが来て、開発の仕事が少ない。
でも、期末などの繁忙期は仕事が一気にくるから、依頼を頂いても仕事をお断りすることになったり。「それって誰も幸せにならないよね!?」って気がついたんです。

大木:それで、定額型の受託開発に切り替えられたんですよね。エンジニアさんって、用意周到でリスクを先に考える人が多いイメージです。準備しておいたら、安心ですか?

栩平:準備しておけば、もしもの時でも誤った判断が少なくなるんです。たとえば、仕事が少なくなった時に売上をあげようとすると、「JETでは価値が出しにくい仕事でも取りに行こう」ってなってしまう。そうはしたくないんですよね。

真崎:仕事の量の話は、いつも社内で話しています。「もし仕事がなくなったら、アレをしよう、コレをしよう」って。話しておくことで、仕事がなくなることへの恐れがなくなります。

適切な判断をするための「条件分岐」

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大木:世の中には、めちゃくちゃポジティブな人いるじゃないですか。「失敗を恐れずにガンガン行こうぜ!」みたいな。それに対して、JETのみなさんはネガティブ思考!?

真崎:エンジニアには、ネガティブ思考な人が多いと思います。だからこそ、ネガティブになる可能性を事前に排除させておくんです。

栩平:大木さんって、プログラミングにどんなイメージを持ってますか?やったことありますか?

大木:息子がプログラミング教室通ってますが、よくわかってないです。コードを書いて、仕組みをつくる人っていうイメージ。

栩平:プログラミングって、語弊を恐れずに言うと「条件分岐の集合」だと思っています。条件分岐とは・・・お天気だったら出かける、雨だったら家にいる、くもりだったら?暴風だったら?って、条件によっていろんなパターンの道筋をつくっていくこと。
経営も同じで、「もし仕事がなくなったら、こうする」っていうのを、普通に考えているんです。

古里:だから僕らは、普段から判断するのにもプログラミングしているようにロジカルに考えています。普通の人よりも、多めに選択肢を持っているかもしれません。

大木:なるほど・・・。コロナ禍で、状況に飲み込まれて潰れて行く会社と、機転を利かせて次のチャンスを掴む会社とで、明暗がくっきり別れたと思うんですけど。JETは、そういうときも落ち着いて「BダメならCいくか〜。それもだめならDで!」って感じだったのでしょうね。「ぜんぜん先が見えないけど、勇気出してAに飛び込んじゃおうか!」みたいな判断は、絶対しないというか・・・。

古里:「これやったら何が起こるか分からないけれど、とりあえずやってみようか!」みたいなことは、ないですね。

大木:古里さんとは、WordCamp Ogijimaの実行委員を一緒にさせてもらいましたが、そういえばそのときも条件分岐しまくりでしたね。

古里:そうなんです。コミュニティーイベントでは、条件分岐の連続でした。WordCamp Ogijima 2018ではカンファレンス以外にもいわゆる宿泊を伴う普通のキャンプも開催しましたが、そのときは裏でリスクアセスメントをたくさんしていました。「熱中症の患者が出たら?」「キャンプ場に行くまでに人がいなくなったらどうしよう?」「船が止まったら?」どういう条件があるのかを事前に洗い出し、結果がどうするかを決めておくんです。どうしようもないこともあるけれど、その場合は「仕方がない」ということが決めておけばOKなんです。分かってないことが起こるから、適切な判断ができなくなる。

大木:私は選択肢の準備を省いてしまいがちですね。「多分晴れるでしょ!台風?こないでしょ!」みたいな。実際、台風がきたら大パニックでしょうね・・・(笑)。絶対適切な判断はできません。条件分岐の応用版ってありますか?家庭でも、プログラミング思考をつかってますか?

古里:僕はすべてのことを曖昧にしない方がいいって思っているので、ifの条件をハッキリさせておくことが多いですね。たとえばコロナ禍以降、子どもを満員電車には乗せたくないから学校まで送っていってるんです。でも、一回それをやり出すと、ずっと送って行かないといけなくなっちゃうから、送り迎えを辞めるタイミングも数値化しています。ifの条件は、「岡山県のコロナ感染者が1000人以下になったら」。「感染者が少なくなったら・・・」とかだったら曖昧になっちゃうから、数字で決めておくんです。

大木:「曖昧にしない」「把握しておく」ことを徹底されているんですね。

真崎:僕たちはビビりなんです。臆病なだけなんです。だからこそ、準備を徹底しているだけなんですよ。

安心材料をつくっておく

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大木:順風満帆なJETに思えるんですが、「このとき、ヤバかったな〜」っていうエピソードはないんですか?

真崎:まだ古里が入っていないときですが、役員報酬を払えてないときがありました。でも、ヤバイ!って言う感じではなくて、「もし経営が立ち行かなくなったら、知り合いに採用活動しに行こう」って言ってました。「嫌な仕事でも、やろう!」っていう精神にはならなかったです。ちょっとネガティブになりそうなときは、社内で話すんです。早めに相談しておけば、「じゃあ、そうなったらこうしよう!」って言ってくれるので。穏やかに、事前準備ができる。

大木:このメンバーにアウトプットするって、安心感しかないですね。論理的にレスポンスしてくれるから。

栩平:僕は、個人で会社を経営していたことがあるので。そのときは、苦労したことはたくさんありましたよ(笑)。だからこそ、JETに入った時に言ったのは「貯金をしよう!」ということでした。だから今は中小企業倒産防止共済にも入っているし、セキュリティ保険にも入っています。だから、例えば僕がシステム的なインシデントを起こして訴えられたとしても、数億円までなら大丈夫。

大木:ひええええ!数億円!万が一請求されたら、一発アウトな金額ですもんね。

栩平:JETって、社長も含め全員が給料一緒じゃないですか。採用も「仕事があるから誘う」ではなく、「一緒に仕事したいから誘う」スタイル。それって普通に考えて、元々会社員だった人からすると怖いと思うんです。でも、僕たちには貯金があったので。古里に入ってもらうときも、「1年は仕事なくても給料払えるよ〜」って言えるから堂々と誘えたんです。

大木:最強だなー・・・。

古里:選択肢を考えることができていて、策を打っていけるのがいいんです。僕は十数年前に、給料の遅配を経験しているんですけど、経営ではなかったので選択肢は少なかったです。無給で働くか、辞めるか。どちらかしなかない。
今は、たくさんの選択肢を自分達で用意できるし、分岐した先の未来をみんなで考えることができる。いい会社だなって思います。

大木:条件分岐ができていたら、何が起こっても大丈夫って思いますか?

栩平:岡山が沈没したら、さすがにヤバイかな。でも住むとこ分散しておけば大丈夫か。

大木:なるほど・・・。災害とかも、むやみに恐れちゃうと闇ですよね。でも、確実に大地震は起こるって言われてる。災害に関してはどう考えていますか?

真崎:僕の家の場合は、「めんどくさくないレベルのことは全部やろう」って言ってます。いろんな対策の仕方があると思うけれど、それをするために普段の生活が面倒になっちゃうと、防災という行動にネガティブなイメージがついてしまう。例えば非常食とか防災グッズとかは、一度準備すれば終わりなので、そういうことはやっています。

分かった上で、「しない」という選択

栩平:プログラマーの三大美徳と言われる、 1.怠慢(Laziness) · 2.短気(Impatience) · 3.傲慢(Hubris) で言うと、「怠惰」に当てはまると思うんですけど。徹底的に条件分岐した上で、そのリスクを飲むというケースもあります。たとえば、「社長の死亡保険はかけるけど、社員はかけない」とか。全員のリスクを潰すのではなく、あらゆる選択肢を網羅したうえで「しない」という選択。

古里:すべてを対策しないといけないという訳ではないですからね。「ほぼ起きない」と言われている対策はしない。日本が沈没した際の対策は、「諦める」。そこに項目があることが大切なんです。
たとえば、「サイトがいつかテレビに紹介されるかもしれない。その時にサーバーがダウンすると困るから、月額100万円のサーバー契約します!」とかって・・・かなり可能性が少ないことにコストかけてることになるので。それだったら、今はサーバーにお金をかけないという選択になりますよね。

大木:私も、お客様のサーバーを選ぶことがあるのですが、選択肢がたくさんあるときって「僕は分からないので、お任せしますよ!」って言われることが多いんです。信用して任せていただけるのは嬉しいんだけど、何か起こったときの責任って全部こっちにあるような気がして。

真崎:お客さんが「判断できない」ときは、もしかしたらこちらが提示している情報が少ないのかもしれないですね。判断できるまで落とし込んで、選んでもらう。それでも分からない場合は、「おすすめ」を伝えています。選んだときの、メリット・デメリットは必ずお伝えしています。

大木:そういうの、事細かく説明していくと、鬱陶しがられることないですか(笑)?

真崎:あります、あります。僕は、親族に「冷たい」って思われていますから。僕は限りなく、相手にとっての正解を導き出したいと努力しているんだけど、そこに感情がないので、冷たいって思われるみたいです。「わかるよ、わかるよー」って共感してあげられないんですよね(笑)

ロジカルだけど、やわらかい

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大木:真崎さんは、親族に冷たいと言われてるみたいですが(笑)私は、そうは感じていないです。ロジカルだけど、やわらかさもあるというか・・・しゃべりやすいです。JETのみなさんにそれを感じています。ロジカルな考えに、意識してコミュニケーション力を高めていったとか・・・ありますか?

真崎:うーん・・・どうなんだろう。持って生まれたものなのかもしれないですね。

大木:私は、クライアントさんとクリエーターさんとの間に立つことが多いのですが、その仕事が成り立っているのは、その方がスムーズだからなんです。コミュニケーションの部分を私が受け持つというか。でもJETの場合、打ち合わせも実際の作業もするんでしょ。それって結構レアですよね。

真崎:そうですね。それで重宝されるんですかね。シーンによって、使い分けているんでしょうね。たとえば、僕はPTAの会長をしていますけど、そこでは絶対に「条件分岐」しないです。

栩平:僕も、条件分岐を思いついちゃうけど、口には出さないですね。

大木:そっか、栩平さんもPTA会長経験者でしたよね。

古里:実は今年から、僕もPTA副会長をしてます。

大木:えっっ。この人数で、会長の確率すごすぎ(笑)

栩平:僕たちの職業は、数学的でデジタルな感じです。音の波で表すと「ギザギザ」してる感じなんです。でも最近思うのは、文学的に捉えることも大切ってことです。音の波でいうとアナログな丸い部分を感じられるかどうか。コミュニケーションってアナログ的ですよね。条件分岐で説明されるわけではないので。僕たちは、納品型ではなく、お客さんと一緒に作り上げていくスタイルで仕事をしているので、完全なロジカルではやっていけないんです。コミュニケーションをとりながら、一緒に組み立てているんです。僕たち、プログラミングはできるけど、お客様の業務のことは分からないから。お互いに、自分たちができることをやっていくイメージです。

大木:あぁ〜分かります。両方大切ですよね。JETはすごくバランスがいいと思います。やっぱり最強だなぁ〜・・・。

▼まとめ

私は論理的に考えることが苦手です。思いっきり文学脳なので、論理的な人と話すときは見透かされているような気がして、怖い(笑)。でも、JETは違います。やわらかく受け止めてくれながら、ものすごい知識と技術で返してくれる。それは自分たちが、「ネガティブで、臆病だからこそ、条件分岐をしている」ということを知っているからかもしれません。

さて・・・次回は、とうとう最終回。テーマは「JETのこれから」です。
お楽しみに!


せいかつ編集室 大木春菜

取材・執筆: せいかつ編集室 大木春菜

愛媛県在住の「ファンづくり」に特化した編集者・ライター。ブランディングマガジン「せいかつクリエイト」主宰。

撮影: リリー フォト 徳丸 哲也